DWWWスタッフによるコーナーです。とっておきの裏話も飛び出すかも!?

2006-07-20

デイジーワールド雑記帳 #01

「スチュワート・ダイベックとワールドスタンダード」



長年放置していた虫歯をつづけざまに三本抜歯。ほとんど手術と
いってよいものをひとつ含めてこの三週間にわたる抜歯苦行はつ
らかった。それに気を許すといまさらながら自分の暗い影の気持
ちが、三本も抜歯するなんておかしいんじゃないか?その医者は
信用に足る相手なのか?と不安をあおるのであった。う〜むそん
な時は先達の御言葉を頂戴しよう。本棚に入らないので床にころ
がっている電話帳のような大冊、江戸時代の碩儒・佐藤一斎の『
言志四録』によれば、「医者は信頼せよ」とのこと。すぐに治ら
ないことに不信をもたず、かかった医者を信頼すれば気持ちが伝
わって手厚く看てもらえるそうだ。しかしセカンドオピニオンが
常識の21世紀にこの箴言はどうなんだろ?ホントーか?いや本当
と思おう。大先輩の指南をありがたく頂いて、自分を預けた歯医
者にしばらく託そう。だってもう抜歯しちゃったし。でも歯を三
本も抜くとなんとなく人生が変わったような気持ちになるのだっ
た。歯と一緒になにか大切なものも抜いてしまったように思える
んですな。
抜歯でもうろうとしながら、去年買ったまま手つかずだったスチ
ュアート・ダイベック『シカゴ育ち』を読んだ。短編集だけど作
品のあいまに短い詩を挟んでブリッジの役割をさせ、連作のよう
に構成。シカゴの下層に生活する人々のなにかもの哀しい機微を
、乾いたシンプルな文体でつづるダイベックの口調は独特でなん
とも儚い余韻を残す。シンプルに軽く読ませる小品の数々は、実
はとても精緻で完成された文体と無駄を排した構成が響きあって
作られるものだ。まるで氷の微細な結晶が雪になり、その雪が降
り積もって白の陰影にトレースされたシカゴ街の静かな輪郭を、
言葉で投影しているような世界観がそこにある。ダイベックは言
葉に精通し、熟練した手法をもった希有な作家だと思う。そして
なによりも決して成功したことのない、どちらかと言えば敗者に
あたる登場人物たちやシカゴの街への愛情を行間に秘して書かれ
た作品は、読む者に深い感銘をもたらすのだった。そこにある種
の無常観のようなものがある。
読了後、無性にワールドスタンダード「雪花石膏-ALABASTER-」
を聴きたくなった。ダイベックの余韻が、雪の中にひっそりと灯
ったキャンドルのように、暖かく揺れるワルスタの音楽に重なっ
ていくのだった。この異なったふたつの作品が響きあうように感
じるのは、かざらない無垢な希望がそこにあるからなんだろう。
その輝きはいつまでも白く繊細にぴかぴかと反射する。ささやか
な輝きをして、ダイベックの作品がシカゴへのオマージュである
ように、ワールドスタンダードのアルバムは音楽に捧げているの
だった。

[7.20..2006]



posted by admin at 00:00 | eiichi azuma